Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

      “あのね、困ってるの” 〜別のお話篇

 

 【Trrrrr,trrrrrr, (かちゃ)
  ヨウイチです。
  ただ今、よい子のお悩み相談室開催のため、電話に出られません。
  御用とお急ぎの方は、
  ぴーという発信音の後にメッセージをお残し下さい。
  ではまた。(ぴー)】


春先の頭っから また…みたいですわよ、奥様。
(こらこら)



       ◇◇


日本では古来より、ひな祭りを催す三月三日が“桃の節句”とされているが、
それを弾き出したのは“太陰暦”という月の運行から算出された暦なので、
今時のカレンダーにまんまあてると微妙にズレる。
別なシリーズで何度も触れていることながら、
太陽暦だと約1カ月とちょこっとほど進んでいるがため、
たとえば“初午”も、
ホントだったら春らしいお日和がお目見えしだす頃合いのはずが、
今時のカレンダーから割り出した日をあてるから、
二月の初めか半ばという厳寒の最中となってしまっており。
桃の節句と言われる弥生三日も、
今の暦で換算すると 卯月(四月)に入ってからとなるので、
桜と競い合うよに桃が咲き始める今時分と、
ちゃんと重なったはずなのだ。

 “…まあ、それはともかくとして、だ。”

おばさんの有り難い季節感のお話は、後で聞いてやっからよと、(いやん)
微妙に面倒そうなぶっきらぼうさで いなしてくださったのは。
そんな横柄さが、なんでまたその年で似合うんだと問いたくなるよな、
それは幼い、まだ小学生のお子様であったりし。
今時の小学生はなかなか大きいし大人っぽくて、
女の子なんて特に、
服装をシックで大人っぽいものにするだけで、
高校生だと言っても通りそうな子が、
ずんとのざらに 居たりもするのだけれど。
それを言うならこの子は真逆で、
それこそ自分の最大の武器を重々心得ておればこそのこと、
わざわざ意識してだろう、
あどけなくも無邪気な坊やという素振りをし、
ファストフード系の買い物なんぞで、
重宝しておいでだとのことで。

 “うっせぇなっ。
  セナぶりこで掛かりゃあ、
  大概のバイトのお姉さんは色々とオマケしてくれんだよっ。”

そうそう、唐揚げくんが多めだったり、
ソフトクリームの巻きが多かったりするんだよね…って。
結局 脱線していては芸がないと思ったか、
以降は場外をまるきり無視の態勢になった、
金髪金茶眸に色白の、
包装紙だけならそりゃあ愛らしいけれど、
実は…かなりのハバネロとんがり坊やが向かい合うのは、

 「あんねあんね、セナ困ってるの。」

さすがに小学生も春休みの真っ只中というこの頃合い。
なので、わざわざ携帯へのメールでお呼び立てくださった、
クラスメートの小早川瀬那くんと。

 「………。」

そんなセナと出先で一緒にいたのでもあろう。
待ち合わせ場所がオープンな店構えのファストフード店だとはいえ、
一応は“カフェ”だと聞いて、
子供だけで行かせる訳には行かぬと思ったらしい、
保護者の進清十郎さん、という二人連れ。
対面相手である妖一坊やとも勿論のこと知己ではあるが、
当然のことながら、
今は関心の比重が自分の連れであるセナくんへと、
ほぼ向き切っているせいか。
あんまり向かい側には視線が向かない極端なお兄さんであり。

 “てっきり桜庭がついて来ると思ってたんだがな。”

まとまりは悪いけれどふわふかで柔らかそうな黒髪に、
潤みが強くて黒みが滲み出しそうなほど大きくて愛らしい瞳。
ぷにぷにの頬を押さえ込むのは、やはりふかふかのお手々で、
そろそろ等身も上がろうかという四年生だというに、
相変わらず寸の足らない四肢がなんとも稚いキュートな坊や。
その可愛らしさと、頼りなさそうに見えても案外と尻腰の強い性格から、
アニメの話し相手にも、甘いもの談義の相手にも、
年齢相応な話題で盛り上がれるお友達にも事欠かないセナくんなので、
よっぽどお手上げな“判らない”でもない限り、
こんな風にわざわざ妖一くんへと訊きに来るのは実は稀なこと。
意外かも知れないが、
日頃はたまたますぐ傍にいるから何でもかんでも訊いているだけの話であり、
また、そういうセナくんとの会話から、
ブリっ子する時に要るだろう、
年齢相応の関心事を拾っているらしき妖一くんだったりもするので、
ある意味、立派な持ちつ持たれつではあるらしい。

  …それはともかく。
(苦笑)

 「で? 桜庭じゃあ間に合わないことなんか?
  わざわざ俺に訊くってことはよ。」

窓辺のテーブルは、
春の陽気が降りそそいでいて眩しいほどではあるが、
窓のお外はまだまだちょっぴり冷たい世界。
頬を真っ赤にしているセナくんは
キャラメル・マキアート、ホイップクリームのトッピングつき、
お向かいの妖一くんはカフェラッテのカップを手にしており。
進さんもまた、珍しくもコーヒーの豆乳割りを頼んでいる。
ただし、飲むためというよりも、
一応は熱くないよう工夫のあるカップ越し、
それでも暖かい肌触りなのを手にすることで、

 「…ふや。///////」

自動ドアが開いた拍子、
セナ坊の額に髪が落ちて来たのを掬ってやったりするときに、
指先が冷たいとイヤなんじゃないかという心くばりのためらしく。

 “凄げぇなぁ〜。やれば出来んじゃん、進にだって。”

つか、セナへと偏り過ぎてのこと、
他へはもっと気を回せない奴になりかねねぇがと。
余計な心配しているそんな小悪魔様へ、

 「あんね? タマがいないの。」
 「またかい。」

さあご一緒にとわざわざ言い出さなくとも
同じ感慨をお持ちになった方は、記憶力が素晴らしすぎです。
そう、以前にも、
セナくんチのペットのタマちゃん(牡、ミックス)が行方不明になり、
小さな坊やが泣き出すほど案じていたので、
進さん、桜庭さんと共に、妖一坊やへ救援を請うたことがある。
その折は、妖一坊やがネット上へとアンテナを張り、
何とか見つけ出せたという顛末があったので、

 「ま〜た あの捜査網を張れってのかよ。」

特に手間なことではないけれど、

 「時期が時期だからよ、ただ単に“ガールハント”してるだけじゃね?」

ウチの近所でも鳴き声がうるさいしと、
微妙な遠回しながら、発情期だからじゃないかと言い指したところが、

 「うん。タマも昼間の今はお家にいるもの。」
 「……………お〜い?」

あなた確か“タマがいないの”って言いませんでしたか?
微妙に目許を眇めた妖一くんだったのへは、

 「セナ、それでは言葉が足らぬ。」
 「あれれ?」

話が通じていないぞと、
この仁王様がそいう意味合いのことで誰かへ助言する日が来ようとは。

 “桜庭がいたら、泣いて喜ぶか、
  世界の終わりだと大騒ぎするかもだな。”

  こらこら。
(笑)

気持ちは判るし、似たような感慨を持った方は、
再びの挙手を求めずとも 既にたくさんおいででしょうが。
こんなところで脱線しないで、とりあえずなと話を聞けば、

 「あんねあんね。
  このごろタマってば、夜になったらお外へゆくの。」
 「ははぁ。」
 「朝になったら帰って来てるけど、
  時々ね、手とかお顔とかに怪我してるのっ。」

心持ち頬を膨らませたのは、怪我を負わせた相手が許せぬか、
それともそんな、
怪我するほど危ない“喧嘩”なんか覚えた家人が許せぬからなのか。
とはいえ、

 「猫の躾けなんてのは、あんまり聞かないがな。」

犬ほど“人間第一”じゃあないからか、
トイレの場所を教え込む以外、
猫には何教えたって無駄だって聞いた事あるしと、妖一くんが言い、

 「喧嘩させたくねぇんなら、
  戸締まりを厳重にするしかねぇんじゃね?」

無難なところというのを助言してやったので、

 『それしかないのかなぁ…。』

てっきりそういう返事が返ってくると思っていたのだが、あにはからんや。

 「んっとぉ、それはいいの。」

  ………はい?

ちょっとばかし予定外のリアクションだったので、
おや、こっちが言ったのが伝わってないのかなと
思わんでもなかったところへと、

 「セナが聞きたいのはね?
  ふりょーになったタマを、どやったらこーせーさせられるかなの。」

 「…おーい。」

  だって夜遊びするなんて不良なんだもん。
  でもでも、ふりょうの人にもいろんな人がいて、
  葉柱のお兄さんみたいな、頼もしい いい不良の人もいるでしょお?と。

桜庭くんが居合わせたなら、
真っ赤になったり真っ青になったりと忙しくもあたふたしそうな発言なのを、
これまた止めるつもりもなさげな進が聞き流すという、
間の悪い取り合わせて来ていた彼らだったことにこそ。
ドンマイドンマイと自分で自分にクールダウンを呼びかけられる、
そんな大人な妖一坊やだったそうでして。

 『いや、俺が居合わせても怒るところまではいかんかったと思うがな。』

話をあとで聞いた桜庭さんが、
やはり真っ青になりつつ、まずはとお伺いを立てた賊学の頭目は、
そんな穏便なお言いようをしてくださり、何とか胸を撫で下ろせたそうではあったが、

 『あんの天然コンビときたらもぉおおお〜〜〜〜っ。』

ちょぉッと目ぇ離すとこれだものと、
ほのぼのしてて見せて、その実、
スリルたっぷりな存在なこと、再確認した一部地域の人たちだったと、
こっそりとお伝えして、春のお話 幕にしたいと思います。






  〜どさくさ・どっとはらい〜 11.04.05.


  *ウチのご近所でも猫の声が聞こえております。
   中でも1匹、ウチの玄関先から裏の物干しまでを
   勝手に縄張りにしているのがいるらしく。
   おはようからおやすみまで、
   その子のお声で縁取られてしまってる今日この頃…。
   (最初は小姫ちゃんの声かと思ったほど、
    春先のあのお声って赤ちゃんの声そっくりですよね。)

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